人気ブログランキング | 話題のタグを見る

佐藤ヒロユキ。仙台在住のMOD音楽職人(サウンドエンジニア&プロデュース/レーベルなどやってます)アナログレコード好き1963年生まれ。GROOVE COUNCIL代表。http://groovecouncil.jimdo.com/


by higemodern
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

幹・アルバム制作日記⑤

2/17
東京駅で幹ちゃんと合流し、四ッ谷にあるスタジオ・サウンドバレイへと向かう。
今回のアルバムの目玉になるナンバーを録音するためだ。

浅田信一氏にアレンジを依頼しいろいろ相談していた段階で「どうせなら東京で録ろう!」となった曲である。
東京でレコーディングを敢行しようと決めた理由は2つある。
まずは、アレンジと楽曲の仕上がりを浅田氏のイメージ通りのサウンドに近づけたかったこと。
もうひとつは、幹ちゃんに超一流のプロ現場を体験してもらいたかったこと。

バッグで演奏してくれるメンバーも素晴らしき仲間が集まってくれることになったので、その楽しみと期待は膨らむばかりであった。
ドラムに古沢Cozi岳之くん、ベースに小島剛広くん、ピアノに平畑8ch徹也くん、そしてギターには浅田氏本人という強力な布陣。

四ッ谷駅を出てほんの少し道に迷ったものの、ほぼ時間通りにスタジオに到着。
すでにCoziのドラムと信ちゃんのギターアンプのセッティングが行われていた。
幹・アルバム制作日記⑤_f0210751_23114191.jpg

このスタジオには初めて訪れたが、機材や広さだけではなく、何か快適なレコーディング空間の匂い(気みたいなもの?)があるなぁ〜と瞬間的に感じた。
エンジニアはまだ20代の相澤くんが務めてくれるようだ。鬼束ちひろなどやっているとのことで音への意欲も高まる。

程なくして小島くんとはっちゃんが到着し全員が揃った。
手土産を渡しみんなに緊張気味に(当たり前だよね)挨拶をする幹ちゃんだったが、丁寧な姿勢とは裏腹の堂々とした雰囲気は、なんか頼もしくさえあった。
もちろんみんなが温かい笑顔で迎えてくれたのが良かったのだろうが、この初めての環境に萎縮などせず実力を発揮してくれるだろうと確信する。

ピリピリしたら嫌だなと思って、受け狙いでモッドなミッキーマウスのパーカーを着用していった僕だが、この気心が知れたメンツには全く不要であった(笑)。

セッティングが一段落してから軽く蕎麦で腹ごしらえして、レコーディング開始。

まずは信ちゃんがアレンジしたデモを全員で聴いてイメージを確認してから、それぞれがスタジオに入りマイクチェックを兼ねて軽くリハ。
僕もスタジオに入りマイクアレンジを確認する。バッチリだ。
幹・アルバム制作日記⑤_f0210751_23122222.jpg

2〜3度のリハのあと、仮歌も含めて全員で一斉に録音を始める。
広いスタジオだからこそ可能な、バンドのグルーヴを生かす一発マルチトラックレコーディング。
仙台のスタジオ事情では、このやり方がなかなか出来ないジレンマがあるので、羨ましい!と思いながら見守る。

1回録って、プレイバックして確認し、また次のテイクを録っていく。
「こんなニュアンスでどう?」と僕に確認しながら、各メンバーに細かい部分の指示を的確に出す信ちゃんのサウンドプロデュースぶりは想像以上に敏腕で、それに呼応する1人1人の演奏技術とセンスにも感心する。
和やかながらシビアにテイクが繰り返される。

そしてテイク3を録ったところでOKテイクが録れた。早い!すごい集中力だ。
気心が知れていて信頼関係があるからこその、心地いいヴァイブレーションが息づいていた。

修正など不要な感じの申し分ない演奏だったが、メンバーそれぞれが自分のプレイで気になったところを自己申告で細かく確認し、ほんのわずかのパンチインで完璧なものに仕上げる。
こうしてドラムス、ベース、生ピアノ、アコースティックギターのベーシックトラックが完成。
こういうプロフェッショナルな意識は、見ていて本当に刺激になるし気持ちいい。

続いてオーバーダブ(他の楽器を重ねる)へ。
はっちゃんが弾くハモンドオルガン、信ちゃんのエレキギター×2。
デモの段階でアレンジがきっちり出来ているので、迷うこと無く進んで行く。
録音を初めておよそ5時間でバックトラックが完成した。
幹・アルバム制作日記⑤_f0210751_23125795.jpg

仕事をスムーズに進めるには段取りが大切とよく言うけれど、この現場でもそれを痛感する。
ミュージシャンの力量ということもあるだろうが、何といっても本チャンにしてもいいんじゃないの?と思うほど完成されたデモ音源と、それを全員がきっちり予習してきてくれたお陰だ。

そしていよいよボーカル録り。
コントロールルームのど真ん中のテーブルにボーカルチェックシートを置き、信ちゃんと僕が座る。
後ろのソファには演奏を終えてリラックスしたメンバーが陣取り、Miki Musuic代表・曽根さんも娘を見るような表情で見守る。

幹ちゃんは録音ブースの中にいるのでモニター画面だけでは表情までは確認できないが、かなりの緊張感と集中力の気配だけは感じとれた。
録り終えたばかりのバックトラックに合わせ、テイク1から録っていく。

エンジニアの相澤くんが唸る「いいっすね。うまい!」なんか僕のほうが嬉しくなってしまう。
バックトラックの良さにまったく引けをとらず渡り合う幹ちゃんのボーカルもすごい。

こちらもテイク3までいったところで「ほとんどいいの録れてるからOKにしよう」と信ちゃんが言った。
ここら辺の判断も難しいところなのだが、異論はない。
何度も歌って結果集中力を欠いてしまっては、いいテイクは録れないからだ。
繰り返しているうちに音程などはちゃんとなっても、歌の勢い(ノリ)とか集中した感じが薄れて、味気ないものになっていく様を何度も見ている。

ほんとに何ヶ所かだけ気になる部分の修正をして、歌入れが終わった。
そしてコーラスを少しだけ入れようとハモリパートのメロディーを決め、すぐさま録音。
これも3テイクでOKが出た。

歌入れ延べ1時間。
とても生き生きとした伸びやかなボーカルが真空パックされた。

ここで録音は終わるはずであったが「じゃ最後にヒロさんのウインドチャイムね」
おっ?本当にやるんだ!?
ベーシックトラックを録った時に「あとでウインドチャイム演奏してもらいますよ」と信ちゃんに言われていたが、冗談だと思っていた。

広いブースに一人入り、入れる箇所を確認しながらしばし練習。
わかってはいたものの、いざ自分が演奏側に回るとあたふたしてしまう。
演奏に夢中になるせいか、全体の音がいつもと違って聞こえるから不思議だ。

音色や鳴らす長さなど、冗談めいたしかし細かくシビアな指示のもと何とか録り終えた。
いつもは演奏してくれるミュージシャンに注文を出す側なので、貴重な経験になった。
もしかしたら、それも計算づくだったのだろうか?とにかく感謝だ。

予定通りのタイムスケジュールで本日の全行程が終了。
楽器を片付けている最中、Coziがこの歌の口笛を吹いていた。なんか素敵な場面であった。

幹ちゃんと曽根さんは日帰りのため、スタジオを後にし東京駅へと向かう。
残った僕らはCoCo壱のカレーを出前して腹ごしらえ。

幹ちゃんの歌に自信はあったものの、正直、田舎のインディーズの子をヒロさんがやってるから仕方なくとか思われたら嫌だな〜と思っていたので「楽しかった!メジャーでも十分通用する!」とみんなに言われてホッとした。

あとはミックス作業だが、ここはエンジニアの相澤くんにある程度まで仕上げてもらって、翌日に最終チェックと直しをやることにする。
これも録音中に音の仕上がり感など伝えながらやっていたので、スムーズなはずだ。
打ち上げは明日にしてホテルへ。


2/18
スタジオへ行くとエンジニアの相澤くんが、まとめられるところは音まとめておきました、というので聴かせてもらう。
ほぼ出来ていた。やるね。

あとは浅田氏を待って細かいニュアンスを直せばOKじゃないかなと伝える。
ま、その細かいニュアンスというのがクセものなのだが、この技術レベルの人ならこちらのオーダーをきっちり仕上げてくれるだろう。
あとはセンスの問題である。

信ちゃんが到着しミックスチェック開始。
微妙なバランス、ベースやドラムの音の感じ、ボーカルの処理など相当細かい修正を入れる。

当然、信ちゃんと僕の意見の食い違いも少しはあるが、そこは信頼しているし方向性はブレないので話せばすぐに解決する。
相澤くんの腕がいいので予想よりかなり早く作業が終わり、ついに音源が完成した。

音がいいのはもちろんのこと、バンドのグルーヴ感と洗練されたテイストがセンスよくブレンドされた良質なポップスに仕上がった。
まさにイメージ通りだ。

楽曲と歌声がいいので、どうやってもおかしなことになるはず無い(信ちゃん談)のだが、やはりアレンジ(特にボイシング)と演奏は大切で、それが良ければ楽曲を何倍も輝かせてくれるのである。
間違いなくアルバムのハイライトになるであろう。
挑戦して良かった!頼んで良かった!

今回のレコーディングで感じたことは、個々の少しずつの意識やレベルが総合力で大きな差になるということ。

いまは仙台で制作することが多い僕は、どうにかして全国に通用するものを作りたい!と躍起になってきた。
もちろん東京だから全てがいいわけではないし、地方でいいものを作っている人たちもいる。

でもこうやって現場で作業すると、やっぱり違うなぁ〜と思う。
それは何かひとつが大きく違うわけではないのだが、スタジオの環境だったり、ミュージシャンやエンジニアの腕だったり、それぞれ全てが少しずつ意識やレベルが高いように感じた。

そしてそれが合わさった時に大きな差になるのだと、当たり前のことに気付いた。
例えば仙台にどんなに立派なスタジオが出来ようとも、エンジニアや演奏者が良くなければそこそこにしかならないだろうし、プロデュースも然りだ。

でも逆に考えれば、限られた環境しか無くたって、今あるひとつひとつの要素を高めていけば近づけるのだとも言える。大きなスタジオがあればなぁ〜と嘆く前に謙虚に学ぶことは大切だ。

それに気付いたのは個人的に大きな収穫だったし、この音源が僕のまわりや仙台の音楽シーンに一石を投じるサンプルになると感じている。
それだけの音源に仕上がったし、幹ちゃんがそういうレベルのシンガーソングライターだという証明にもなる気がする。

これも偏にサウンドバレイのスタッフ(エンジニア相澤くん、いろいろ便宜をはかってくれた山田さん、アシスタント君)、演奏してくれたミュージシャン(8ch、小島くん、Cozi)1人1人のお陰だし、この提案を僕に任せてくれたMiki Music曽根さんに本当に感謝である。

特にいろいろコーディネイトしてくれて、楽曲に対して手を抜くことなく真摯に取り組んでくれた優しくも冷静な浅田信一氏には、ほんと足を向けて寝られない(笑)。
(しかし見事な仕事ぶり!)

そしてもちろん、幹ちゃんの歌がすべての中心にあることは言うまでもないのである。

何だかアルバムが出来上がった挨拶みたいになってしまったが(笑)まだまだ終わったわけではない。

この経験を生かし、他の曲たちもひとつひとつブラッシュアップしていかねばならない。
それがこのアルバムの魅力(総合力)になると学んだのだから。
それにしても才能同士がぶつかり合うエキサイティングで勉強になるRECだったなぁ。

そんな事を考えながら、信ちゃんと夜の焼き鳥屋へ向かった東京2日目だった。


さて今週は佐藤達哉氏を迎えてのレコーディングがある。
こちらも相当楽しみなのである!

では、また。


※おまけの用語解説
「マイクアレンジ」
各楽器にどんなマイクを使いどんな角度で向け録るのかということ。
マイクの種類や設置場所で音はすごく変わるのです。

「一発マルチレコーディング」
せ〜の!で全パートが同時に演奏はするが、マイク1本1本録るのは別々のTrackに録るREC方法。
言葉で説明しづらいなぁw

「パンチイン」
一音だけとかフレーズだけとか、音の部分差し替え。

「コントロールルーム」
文字通り調整卓などが置いてあり音を調整したり聴いたりする部屋。放送では「サブ」とも言う。
これに対し演奏者がRECする部屋を「ブース」と言います。

「ボーカルチェック」
ボーカル録りの時に、歌詞の間違いを見たりしながら、一行、一文字単位でOKかNGかなどをチェックしていくのです。
例えば○とか△とか×とかピッチ(音程ずれた)とか、歌詞に書き込んでいくのです。
けっこう細かい作業です。

「ボイシング」
コードの響き・音使いのこと。
例えばCはドミソと押さえてもソドミと押さえてもCだが、響きは違うので、どの音使いをするかは非常にセンスを要するし深いのです。
ボーカルものだと歌を邪魔しないようなボイシングじゃないと歌が生きないのです。
by higehiro415 | 2011-02-20 23:15 | 音楽