歌謡フォーク
2012年 11月 07日
当初はもっとサクッと終わらせる予定だったのだが、やっているうちにずいぶんと凝ったものになっていく…というか自分がそうしているのだけれど(笑)。
この作品は一般の方からの依頼なので詳しく書くことは出来ないのだが、簡単に説明するとこうだ。
依頼主Oさん(♂会社員、推定56歳)は昔ギターが趣味でフォークソングを歌っていて、その頃作った曲を作品として残しておきたいという願いを抱く。
どこでそんな風に思ったのかは訊いていないが、もしかすると自分の老いを感じたのかもしれないし、昨年の震災でそう思い付いたのかもしれない。
とにかく何かがきっかけとなり、自分の作品を初めて音源化しようと思い立つ。
そしてそれをCD化するなら何十年か振りに新曲も作り、自分ではなく歌が上手い知り合いのGさん(♀推定31歳)に歌わせたらいいんじゃないか?と想像する。
そんな自分なりのドラマを行きつけの飲み屋で話すOさん。
たまたまその飲み屋の店主は音楽畑出身で、それなら具体的に相談に乗りますよとなり、僕のところにアレンジとレコーディングの依頼が来たのである。
予算も限られているのでアレンジはギターとピアノのシンプルなものにし、レコーディングは僕の自宅や仲介者のバーでやりましょうと打合せした。
収録したいともらった原曲は4曲。生ギターと歌のみで、イントロや間奏などもほとんど無く、2曲は昔のもの、あと2曲は新曲だという。
メロディー以外はお任せします、と頼まれ持ち帰る。
確かに昔のフォークソング的なニュアンスで良くも悪くもみな同じようなテイストの曲だったが、Gさんの歌声は素敵でOさんのメロディーは印象的で味があった。
ギターとピアノを弾きアレンジをしているうちに、なんだかいろいろ閃いてきて、試しにベースやリズムも入れてみた。
すると4曲それぞれの色合いが明確になり、ミニアルバムとして考えるとなかなかいい感じになるのではないかと予測できた。
M1は情緒的なムード歌謡、M2は昭和の歌謡ロック、M3はカントリー調の軽やかなフォーク、M4はムーディーなポップス。
そんなイメージで簡単なデモ音源を作って、方向性がこれでよいか確認する。
相手は一般の方なのでデモの意味が通じなかったようで、打ち込みのリズムが気になるとか、ノイズが入っているとか、もう少しアコースティックにとか注文が来たが、それはこれから全部きちんと差し替えますと説明する。
肝心の方向性だが、最初聞いた時はいろいろ楽器が入ってるし雰囲気が大きく変わった曲もあり面食らったが、何度も聞いているうちに良いと思えてきたという微妙な答えであった。
もっと完成品に近い形で聞いてもらうために、すぐにオケ作りに入る。
ドラムは予算の関係で打ち込みだが、なるべく機械に聞こえないように細かな部分まで時間をかける。
ベースを弾きギターを何本か重ねキーボードを入れる。頭の中にはあるけど弾けないピアノやオルガンは友人Mに頼み弾いてもらった。
テイストの幅を広げたいので何ヶ所かのギターソロは仲介者Kに弾いてもらう。
音色やフレーズは歌詞や曲のイメージを一番に決めていく。
音を重ねすぎてぼんやりしてしまった箇所は、音を差し替えたり抜いたりで試行錯誤した。
こうして出来上がっていった歌入れ前までのラフのオケはとても気に入ってくれたようで、これまで他人行儀だったOさんとGさんが笑顔で優しく接してくれるようになった(笑)。
さすがにボーカルはスタジオで録ったほうがいいと判断、Gさん生涯初のボーカルRECは予定の倍の時間がかかったが、いいものが録れた。
細かい音程とかより、気持ちのこもったテイクを採用。あとは僕が細かいEditをすればいい。
こんな感じで昨日から孤独なMix作業に取りかかっているのである。
結局300枚くらいプレスして国分町界隈の知人とかに販売することになったようで、マスター納品締切りの明後日まで、時間の許す限り作業したい。
ここまで時間と手間をかける予定ではなかったのに、どうしてこうなったのか。
その原因は2つだ。
1つは僕の凝り性な性格。
2つめはOさんの純粋な思い。
凝り性と簡単にいっても、そこには僕なりの気持ちもある。
プロとしてのプライドという言葉に置き換えてもいい。
依頼主にとって僕はどこの誰かもわからない存在だし、相場ほど高くないとはいえお金も払うわけで、正直どんなもんだろうと思われていたに違いない。
だからこそというか、やっぱりプロに頼むと違うんだなぁと思ってもらえなければプロが存在する意味がないし、お金をもらう以上は相手の望むことが最低限で、プラスαこそが自分にしか出来ないサービスだと思うのだ。
それに自分が描いたイメージに近付けたいという、音楽職人の血が騒いだこともある。
そして自分の作品を形に残しておきたい!というOさんの気持ちは、この歳になるとすごくよくわかる。
しかもどうせやるならちょっと格好付けられる内容のものにしたい!という音楽好きの男心は嫌いじゃない。出会った縁というのもある。
RECの時のOさんの顔は普段のスーツ姿とは違う少年の目をしていた。
もし仮にこのCDがOさんの人生において最初で最後の作品になるとしたら、作品の良し悪しは個人の判断なので別として、少なくともアレンジや演奏から音まで任された僕が手抜きなどしていいはずないのである。
低予算の素人ものなどという上から目線でやっつけたら、僕はこの先音楽にひどいしっぺ返しを喰らうだろう。
先程と矛盾するかもしれないが、利益効率という意味ではプロとして疑問符がつくやり方かもしれない。
それでもこれが自分のスタイルだし信念なので、これでいいのである。
いくらコンピューターが進化して音楽作りが機械頼みになっても、そこは聴くのが人である以上、作り手のマインドというのはやはり音になって表れるのではないか。
はじめはなんか変な仕事が来たなぁ〜と思ったのも事実だが、作業をしながらいろいろと気付かされることの多い、とても勉強になる物件なのだった。
やってみなければ分からないことってほんと沢山あるなぁ〜と感じながら、締切りまで粘ります!
追伸
プロ云々と書きましたが、演奏者としてはアマなので悪しからず(笑)