光速を超えて
2010年 09月 25日
4年ぶりのバンドツアーは、9/20の仙台公演をもって大盛況で終了した。
5本だけのツアーだったが非常に密度が濃かったので、倍ぐらいやった気がする。
遅ればせながらPA担当の僕なりに、ツアーを振り返ってみようと思う。
9/1東京で最後のリハ。
翌日は大阪への移動だったし、本番前に一度ちゃんと聞いておきたかったので、僕もリハスタに駆け付けた。
曲は全て知ってはいるが新しいバンドアレンジを施しているものやジガーズ時代の曲、そして今まであまりやらなかった曲がセットリストにあったので、生の演奏を聴いてイメージを作っておきたかったのだ。
それに僕のPAエンジニアのスタイルとして、細かいニュアンスもライヴ感そのままにスピーカーから出したいと思っているので、メンバーのみんなの手癖や演奏する姿もインプットしておきたかった
例えばフィルを叩く時のCherryさんのスティックの動き、ギターをかき鳴らす時の光くんの腕の勢い、ソロを弾く時の達也さんの体のくねらせ方、タメを出す時のマットの表情などなど。
サトルの癖はソロをだいぶやらせてもらっているので、ほぼわかっている。
ここでソロが来るとかはもちろん曲で憶えているが、みんなの癖を知っていると、より本人たちの演奏のニュアンスを汲み取れるし、ダイナミクスを生かして曲の表情を鮮明にすることもできる。
何より瞬発力とキレのあるフェーダー操作ができる!というのが僕の持論なのだ。
何を言っているのかわかりづらいかもしれないが、例えば力を込めてドンとドラムを叩けば大きな音が鳴る。
それでいい時もあれば、もっと目立たせたほうがより印象的に聴こえることもある。
逆に大きく聞こえ過ぎて浮いてしまわないように、その瞬間だけバランスを取る場合もある。
ほんの少しの色付けではあるが客席によりよい印象を与えるために、微妙な一瞬の調整が大事な場合が多々あるのだ。
リハを聞きながら曲ごとのイメージを具体的に出来たので、参加して正解だった!
僕なりのテーマとして「心に響く温かい音」を出すように心がけようと決めた。
9/3大阪・心斎橋QUATTRO
初日ということで入念なリハを行う。
直前に決めたアレンジなどもあったようで、本番は全員が手探りの部分があったと思うが、それを差し引いても軽々と合格点を突破するレベルの高さを見せつけてくれた。
光くんに預けたというセットリストも新鮮だった。
僕は初めて仕事する小屋だったが、搬入口を除けば(PARCOだからね)とても使いやすく、ナチュラルな音の響きが気に入った。
ツアー前に喉の炎症を起こしてしまい、翌日の移動と次の東京公演を考えて、大事を取って泣く泣く打ち上げは欠席した。
具合が悪くなると耳の聴こえにも影響するからだ。
にしても呑めなかったことより、メンバーとの反省と交流が出来なかったのが悔やまれる。
9/5東京・下北沢GARDEN
前日、大阪からの移動前に病院に行けたし、東京に入ってからはマットと2人ホテル隣の「バーミヤン」で軽く乾杯し早めに休んだので、体調はだいぶ回復。
大阪での反省を生かした修正と、この日はライヴDVD制作のため撮影も入るということで、開場ぎりぎりまでチェック&リハが続く。
本番は大阪よりだいぶリラックスしつつも、DVD撮影のためか少し力んだところもあったようだが、それが逆に勢いとなり客席に伝わった。
とてもパワフルなライヴになったと思うし、DVDが待ち遠しい。
あの楽しげな登場シーンが形作られたのも、この日の収穫だったのではないだろうか。
山寺宏一さん、瀬木貴将さん、鈴木達也くん、今井千尋くん、谷口崇くん、石嶺聡子さん、花房彩子さん、アントニオ古賀さんなどゲストも多く、華やかな雰囲気が終演後の楽屋には漂っていた。
僕の音のほうだが、何度かこのホールでは仕事しているが、PA席(ハシゴで上る屋根裏にある)の位置と横長の形状のため、バンドサウンドをうまく響かせるのにやはり苦労した。
聞く場所によっては物足りなく聴こえたところもあったようなので、次への課題としてもっともっと腕を上げなければと心に誓う。
サトル行きつけのホルモン屋にて打ち上げ。
この光景も、よりバンドっぽくなってきたように見えた。
9/11札幌・KRAPS HALL
僕とサトルと楽器クルーの阿部ちゃんはフェリーでの長旅になったが、それはかえって小旅行気分が味わえて、いい気分転換になった。
ライヴのほうはと言えば、前回から5日空いていたので演奏の感覚がどうかと密かに心配していたが、まったくの杞憂だった。
少し間が空いたことで、かえって考え過ぎず新鮮に曲に向かい合えたのだろうか?
何より観客の大声援とノリノリの雰囲気が、みんなのテンションを更に上げたのは間違いない。
裏方の僕までもが、ハイな気分になる。
修正を重ねながら本番を2回こなしたことで、バンドの一体感が増してきたと同時に、サトルの歌の表現力もグンと深みを帯びてきたように感じた。
僕の音のほうも、細かい部分までバンドの呼吸に合うようになってきて、ようやく少し余裕が出てきた。
それでも初めて使うスピーカーを攻略しきれず、もうちょい硬い音にしてもよかったのかなぁ?などと、欲は深まるばかりだ。
打ち上げはススキノの炭火焼居酒屋(楽器の阿部ちゃんと達也さんの知人)にて。
楽しく呑みながらも、残り2本のために反省も欠かさないメンバーなのであった。
阿部ちゃんは次の週末は他の仕事が入っていて、今日がラスト。
いい仕事してくれた!
9/19青森・クォーター
僕は前日の福島での別現場でヘトヘトの中、当日朝に車で青森入り。
会場は昔からいろいろなアーティストの仕事で何度も訪れている、親しみのある場所。
勝手知ったるオーナーが温かい笑顔で出迎えてくれ、1年ぶりの固い握手。
お互い地方都市で頑張っている共通項がある。
残り2本の楽器クルーはCherryさんとも仲がいいBuddyさん。
照明はジガーズサン時代からのベテラン人情照明屋・馬場さんだ。
Cherryさんは前々日・前日と頭脳警察のライヴで疲れが出たのか、風邪をひいたようだった。
光くんは他のプロデュース作業を平行しており、徹夜で会場入り。
達也さんも忙しい人だし、マットはライヴの日以外は実家のりんご農園の過酷な仕事をこなしている。
サトルも映画音楽の仕事や楽曲提供の仕事を抱えて多忙で、このツアーにだけ掛かりきりになれる状況ではないのが現実だ。
そういう僕だって然り。
しかし、この日はサトルの生まれ故郷ということで各関係者や親戚なども大勢駆け付けるし、そんなことを言っている場合ではない。
バンドで青森を訪れるのは11年ぶりだそうで、何よりそれを心待ちにしている方々にイイものを見せたい!という気合いが全員にあったと思う。もちろん僕にも。
青森は比較的おとなしいイメージがあり、案の定スタンディングスペースには誰も来ず、仕方なくイスを並べることになった。
しかし、あのSEが始まりメンバーが登場すると客席は総立ち。良かった!
1曲目から、グルーヴが音の塊となり客席に容赦なく降り注ぐ。
あれは脳天にくる!本当にみんな疲れているのか?
いや、だからこそ魂と気力で演奏し歌うしかなく、結果それが凄まじい波となり押し寄せたのだろう。
演奏の質もより高くなり、彼らの底力をまざまざと見せつけられたライヴだった。
この日からアンコールで達也さんが思う存分動けるよう(笑)アコーディオンにはワイヤレスマイクを導入した。
僕は使い慣れたホールなので、疲れてはいたが余裕があり、小技が何度も決まった。
夜に全員が仙台へ移動のため、打ち上げはなし。
味噌カレー牛乳ラーメン!を食べてから仙台へ向かおうとなったが、僕は翌日早く会場入りなので食べずに出発。
帰り際オーナーに「次は泊まりで来てな〜」と言われ、強くうなずく。
9/20仙台・エルパーク仙台スタジオホール
ここで仕事をするのは5年ぶりくらいだろうか。
サトルに至っては15年以上ぶりだと言う。
このホールはファッションビル(今は三越)の6階にあり、ライヴホールというよりは発表会や演劇などにも使われる多目的スペースだ。
なので通常は舞台がないフラットな箱のような感じで、照明もあまり数は多くなく音響はカラオケ程度のものしかない。
そこにいかにイイ感じで会場を作るかという前段階から、ファイナルへの準備は始まっていた。
ファイナルであるし、サトルには縁の深い街だ。そして僕の地元でもある。
少しでもカッコよくて音のいいライヴ環境を作ろうと、各方面に協力をあおいだ。
舞台監督の山品さん。今は仙台在住ながら昔からThe BOOMなどを手掛けている。サトル本人ともジガーズの頃からの付き合いだ。
照明は前日に引き続き、魔法使いと呼ばれる馬場さん(from東京)と、仙台からも腕のいいチーフ格がピンスポをやってくれることに。
楽器は昨日と同じド迫力のキャラを持つ職人Buddyさん(from東京)。
僕のアシストをしてくれるPAの機材とスタッフは、昔からお世話になっている仙台の大手PA会社が破格値で提供してくれ、特にスピーカーは、わがままを言っていいやつを持ってきてもらった。
物販は以前サトルのマネージャーをやっていた日吉くん夫婦と、昔からスタッフをやってくれている門馬さんが東京から手伝いにきてくれた。
受付にはイベンターGIPの門馬くん、Lapland社長の小林氏。
これだけ揃えば鬼に金棒である。
朝の9時前から機材搬入、舞台作り、セッティングと徐々に本番を迎える準備が整って行く。
昼過ぎにはメンバーも会場入りし、サウンドチェック〜リハへとなだれ込む。
みんな疲れはピークのはずだが、そんな感じは微塵も無い。
ファイナルを最高の形で飾る!という気合い、プロ意識、レベルの高さ。
それぞれの曲もいい感じでメンバーの中に染み込んでいて、まるでパーマネントのバンドのようだ。
本番はどんなことになるんだろう?というワクワク感に包まれる。
サトル本人はもちろん、バンドメンバーもスタッフも全員「いい仕事するぞ!」と意気込んでいるのだから、悪くなるはずがないと信じて本番を待つ。
開場しお客さんが次々とフロアのイスを埋め尽くして行く。
マスコミをはじめとする関係者の数もとても多く、あっという間に後ろの立見スペースも満杯になった。
僕らと同じように、本番前は会場全体が期待と緊張の雰囲気で包まれた。
定刻5分すぎにオープニング・アクトの演歌歌手、ヨシヒデが登場。
彼は仙台と青森で放送中のサトルのラジオ番組に、相方として出演中の面白い奴だ。
まったく告知していなかったのではじめ戸惑っていた客席だが、彼のキャラと歌の巧さでリラックスしつつ会場が一体化していく。
(しかし、ヨシヒデが出ると僕も含めみんなに知らされたのは、リハ終了直前であった。伝えるのを忘れていたのは、もちろんサトルだ!w)
そしていよいよ!
僕がSEをスタートさせた途端、歓声と拍手が鳴り響き総立ちになる。
メンバーがステージに登場しライヴは始まった。
途中、客席の声に応えるかたちで、ジガーズ時代の名曲「オートバイに乗って」のサビを披露。サトルとマットの兄弟ハーモニーに観客がおおいに沸く。
ライヴは、月並みだけれどめちゃくちゃ良かった!最高のパフォーマンスと演奏だった。
多くの人が感じたと思うが、成熟した大人にしか出せない音と言ったらいいだろうか。
うまく言葉では表現できないが、とにかくパワフルかつ繊細な音の塊が放出された。
ガツンとくるところと、ス〜ッと引くところが絶妙のバランスで配合され、会場全体がちょっとしたトリップ感覚に陥っていたようだ。
僕までもがそうだった。それだけ気持ちよかった!
だから正直、僕の音のほうは冷静に振り返れない。
でも少なくとも、このツアーで最高の音だったことだけは確かだ。
そんな感じでツアーは終わった。
打ち上げは30人はいただろうか。この日が誕生日だったマットへのサプライズケーキなどもあり、こちらも盛り上がった。
ツアーblogに光くんも書いていたが、また一緒にやりたいメンツだったなぁ。
ツアーの総括を僕なりにするとしたら、1つだけどうしても言いたいことがある。
それは頂上を目指して努力し、積み重ねてきたものの重みと美しさだ。
サトル本人、バンドメンバー、スタッフ。
こんだけの信頼できるハイレベルなベテランプロ集団が揃い、ひとつの目標に向かっていく姿は、ほんとうに感動的だった!
そういう重みがストレートに伝わったツアーだったようにも思える。
最後に、懲りもせず僕を指名してくれたサトル、優しく接してくれたメンバーのみんな、協力してくれたスタッフと各地の関係者の方々に、この場を借りてお礼を言いたい。
そして各会場に足を運んで声援を送ってくれた皆さん、本当に感謝である。
ありがとうございました!