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佐藤ヒロユキ。仙台在住のMOD音楽職人(サウンドエンジニア&プロデュース/レーベルなどやってます)アナログレコード好き1963年生まれ。GROOVE COUNCIL代表。http://groovecouncil.jimdo.com/


by higemodern
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東京3days②:浅田信一at Zher the ZOO Yoyogi

「いやぁ〜・・・ねぇ、ほんと。こんにゃろ〜!」
このMCが浅田信一という男の本質を端的に表していたのではないかと思う。

ライヴ中盤弾き語りコーナーのラスト、達ちゃんと2人での♩Please God が終わりバンドメンバーを呼び込む。
先にステージに出てきたはっちゃんがピアノでHappy Birthday To You〜♩と歌い始める。コジとcoziがバースデーケーキを持って登場し信ちゃんに差し出す。

客席がドッと沸き拍手と大合唱の中、突然のことに照れながらもロウソクの灯を吹き消したあとの一言だ。
そして「ありがと〜。SMILE時代の曲やります」と♩明日の行方 のイントロへ。

サプライズにしてはあまりにも呆気ない一コマだった。
しかし自分だけが派手に前に出過ぎたり持ち上げられたりすることを好まず、そういうことを極端に照れ臭がる信ちゃんの素が出た瞬間でもあった。
これは翌日のアナモンでのMC(多くを語らなくてもわかってるだろ?という話題)につながっていく、古市コータローとの共通点でもある。

このBDサプライズは確かにバンドメンバーと相談したものであるが、信ちゃんのバースデーを一緒に祝う瞬間があればいいなぁ〜、とファンの人たちが思っていると知った上でのことでもある。
きっとそんな大勢の人からの愛情を感じ、照れ臭くて仕方なかったに違いない。
それでも一瞬顔が紅潮し目が潤んだのを僕は見逃さなかった。
東京3days②:浅田信一at Zher the ZOO Yoyogi_f0210751_828946.jpg


この日は朝から僕もそわそわしていた。いや前日の夜からと言ったほうが正確かもしれない。
4月以来の浅田信一&リトルメランコリーズ・ワンマンライヴ、しかも信ちゃんのバースデー2daysということで、やはり何となくいつもと違う感覚である。

まぁ僕が演奏するわけでは無いのでそわそわするのもおかしいかもしれないが、それでも音作りという面で少しでも協力できればいいなと腕が鳴っていたし、いちファンとしてのライヴへの期待感で胸が膨らんでいたからだ。

朝7時前に信ちゃんからメールが来た。「本日14時入りです。あと客入れBGMよろしく!」
当日の朝に言うことじゃないよなぁと1人ツッコミを入れつつ、了解!と返信した。

前日の仕事のことを伝えていなかったので、きっとこれから仙台を発つのだと思っていたのだろうし、わかってると思うけど念のため…みたいな感じだったのかもしれない。
その後Twitterを見ているといろいろツイートしている。きっと彼も緊張というかプレッシャーというか、胸が高鳴っていたのだろう。

BGMはそうなることを予測し東京に来る前夜に、ああでもないこうでもないと夜なべして作ってきていた。
前にも書いたが客入れ時のBGMには個人的に思い入れがある。

ライヴ前の逸る気持ちをBGMに乗せ音楽に身を委ねる。スタートラインに立つ前の準備運動と同じで、その方が気持ちも身体も思い切ってダッシュをきれる。僕の場合はそうなのだ。
もちろん本人が登場すれば盛り上がるのは間違いない。それでも加速度を高めるためにも開場時のBGMは大切で、それが本編につながっていく役割になればいいと思う。
あくまで個人的な意見ではあるが。


メンバーより一足早く会場に入った。
PA担当のAさんが僕の送ったPA回線表を元に、いい具合にデジタル卓のパッチをしてくれていた。
2回目ということもあるが、前回の僕の使い方を覚えていてやりやすいようにと工夫してくれたその気配りが素晴らしい。
東京3days②:浅田信一at Zher the ZOO Yoyogi_f0210751_1266.jpg

マイクや回線の打合せを済ませスピーカーのチューニングをする。
前回の反省は場所によって低音がたまったことと、客席横のカウンターのほうに溢れたお客さんにクリアな音が提供できなかったことだ。(カウンター方向にはスピーカーが付いてないので仕方なかったのだ)

そのことを踏まえてチューニングする。
Aさんと相談し、カウンター方向へは専用スピーカーを別に仕込んだ。
ステージが見づらい上に音が悪いじゃ可哀想だ。これでだいぶ解消されるはずだ。

メンバーも会場入りして楽器セッティング、マイクセッティング、回線チェックをいつものように行う。
平行して照明の会長(本名:岡野さん)もライトを仕込んでいく。

サウンドチェックとリハは、モニターの具合を細かく確認しながらだ。
使い慣れないタイプのミキシングコンソール(音響調整卓)なので、素早く反応するのにちょっとだけ手間取ってしまった。メンバーのみんな、ごめんよぉ〜。

それでも順調にリハは進む。
4月より明らかにまとまりもありパワーアップしているバンドサウンドだ。
Gt:鈴木達也、Key:平畑”はっちゃん”徹也、Ba:小島剛広、Dr:古沢”cozi”岳之という前回と同じメンバーに、ローディー:川崎圭太、照明:会長(なんでそう呼ばれてんだろう?)、そして会場までも、今や浅田ファミリーとも言える面々ががっちりサポートする。
東京3days②:浅田信一at Zher the ZOO Yoyogi_f0210751_8295427.jpg

プロの仕事は段取り八分と言うが、そういった意味でもリハの時点でいいライヴになることは、ある程度予想できた。
僕も練ってきた秘策を試しながら、精一杯音をまとめていく。
あとの2割は出たとこ勝負だ。それがライヴの醍醐味なので、それでいいのである。


ドアオープンの時間になり例のBGMを流す。
10分押してもいいように12曲40分を用意してきた。

前回は確かアナログ音源のJazzyな選曲だったが、この日選んで行ったのは今の浅田信一サウンドと同じ匂いがすると僕が勝手に想像した曲たちだ。
いちおう曲順も考えてCDに焼いてきたが、お客さんが入り出すと雰囲気も微妙に変わるので、ところどころ曲順をいじりながら流した。

8分押し。
この日の登場はSE無しだ。会長とアイコンタクトを取りBGMと客電を同時に落としていく。

白いシャツに身を包んだ5人のミュージシャンがステージに現れると、拍手と歓声が上がる。
信ちゃんがギターを鳴らす。鳴らしては止める。客席をあおる。歓声が上がる。そしてまた鳴らす。手拍子が鳴る。
何を〜、見つ〜め〜て〜るの〜♩ANSWER がオープニングナンバーだ。
しかしこの曲の展開はドキドキするほどカッコいい。
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PA席の隣に陣取ったコータローがすかさず話しかけてきた。
「佐藤クン、いいねぇ〜。特に信ちゃんの声。なんのエフェクター使ってんの?」
鋭い男である。

企業秘密なので(笑)細かくは書かないが、信ちゃんの最大の魅力は何と言っても歌声にあると思っている。どうにかあの生の声の感じをライヴで出せないかと、今回はいろいろ試行錯誤した。
バンドの音に負けないボーカルの音圧と繊細さを出すために、エフェクター(音響効果機器)やイコライザー(音声信号の周波数特性を調整する機器)だけではない別の手法も加味する作戦に行き着いた。

マイクを通って卓を通ってアンプを通ってスピーカーから音が出るというPAシステムの基本時点で、シビアにみれば本来の音とはだいぶ違ってきてしまう。
それをどうにか補正しようと工夫したことが、うまくいったようだ。

全体としてはJ-POPのようなボーカルが大きくバックが低いバランスではなく、ロックっぽさも保ったそれぞれの楽器の音がきちんと聞こえるけれど、決してうるさくはなく歌詞も聞き取れるバランスを心掛けたつもりである。


「こんばんは、浅田信一で〜す」続けざまに♩パラソル〜♩五等星。
メンバー紹介ではおどけたネタのようなMCで笑わせる。

そしてこの日発売されたEPにも収録された♩春のうた。メロディアスで爽やかなポップチューンだ。
やはり後方に低音がたまっている感じがあったので、ベースの音を調整したら何とか収まった。

続いてEPの表題曲でもある洋楽のような♩無常の世界。
レコーディングもしたせいか前回聞いたときより音の隙間がより整理され、クールなグルーヴ感が増していた。やはり名曲である。好きだなぁ、この曲。
隣の男も声を掛けてくる。「佐藤クン、この新曲いいよねぇ」

そしてMC「年々やりたいことがシンプルになっていくよね。いまは自分のやりたいことをやるだけだなと思う。気付くの遅い?」
いやいや歳を重ねたからこその重みのある言葉ではないか。

さらにはメンバー全員で着用した白いシャツの話題に移る。
要はシャツの中にタンクトップを着るかどうか?という話で、客席にどちらがいいかアンケートを取り決着を着けようとしたが、だいたい半々で引き分けに終わった。
ちなみに僕は着ない派だ。

信ちゃんの無茶ブリに応えて達っちゃんが即興でワンフレーズ歌った「タンクトップの歌」(笑)だが、なかなかいいメロディーだったなぁ。

夏の夕暮れにぴったりの♩宵待ち が終わったところでバンドメンバーがハケて、信ちゃんの弾き語りコーナーへ。

ハーモニカをフィーチャーした♩夏のうた、先日DJをやった時にお客さんにリクエストされたという♩月曜日の雨。

「別に寂しい話ではなくて、あと何回ライヴできるんだろう?とか考えると1回1回がラストライヴだと思ってやるべきだと思うんだよね。だからひとつひとつ大事にしなくちゃというか。新曲はこれからもやるだろうけど昔の歌も同じ軸で歌って行くべきだと思うし、自分の曲をあと何回歌えるかと思うと、自分の作った曲は歌い継いでいきたいな」

ここで小3から友達だという達ちゃんが登場し、爆笑ネタへと続く。
小5のころ遊んでいると「信ちゃんさぁ、SEXって知ってる?」と性関係の本を持ち出して説明してきたという話だが、これはエロいというより男の子なら誰でも思い当たる微笑ましいエピソードだろう。
達っちゃんが♩せっ〜くす〜と歌い始めた時はさすがに吹き出したが、悪ふざけが過ぎたと気付いたのか、すぐやめた(笑)。

ここで2人での♩Please God が演奏され、冒頭のサプライズケーキの場面へと続くのである。

バンドメンバーが揃いSMILE時代の曲を3曲。
♩明日の行方〜♩STEREO TYPE。このバンドのアンサンブルのせいか、また違ったニュアンスにも聞こえて新鮮だ。
♩ジグソーパズル、もちろん紙飛行機が会場中を舞う。

ライヴも終盤、加速度を増す。
♩UNKNOWN WORLD ではメンバーと客席の大合唱。会場内のボルテージが一気に上がる。バンドの演奏もどんどんグルーヴしていき、僕の隣のコータローはノリノリでエアドラムをかましている。
東京3days②:浅田信一at Zher the ZOO Yoyogi_f0210751_833983.jpg


疾走感あふれる最高の流れ♩DRIVE〜♩深夜バス でエンディングへと突っ走る。
会長のライティングも劇的にそれを演出する。

そして反則技とも思える強力なメロディーを持つあの曲へ。
こわれそうな〜、望みさえも〜♩本編ラストは♩CHERRY BLOSSOMS。
フロア全体が音の渦に包まれいっそう大きくうねる。隣の長身のお方は立ち上がってハンドクラップの嵐だ。

演奏が終わっても当然のように拍手は鳴り止まず、アンコールへと突入。
メンバー再登場で黄色い声援が飛ぶ。

「アンコールありがとう〜!明日またここでやります。あと来月仙台でイベントに出ます。今日フライヤーも入ってるけどライヴしにいきますんで。仙台もね、みんな頑張って平常通り動いてるみたいだけど、でもまだ大変なこともあって。震災後まだ向こうに足を踏み入れていない方は、興味本位ではなくてね、ライヴのついでに被災地を訪れるというのも人生の経験のひとつでもあるかなと思うんで、お誘い合わせの上いらして下さい」

とても胸に刺さる言葉だった。
僕が主催しているとはいっても地方都市の1イベントに過ぎず、震災のことも含めてこんな風に真意も汲んでくれMCで告知してくれたことへの感謝の気持ちでいっぱいになる。
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アンコールは夏の終わりの郷愁を誘うメロウなナンバー♩ひまわり。
達っちゃんの粘りのあるギターフレーズも沁みる。

メンバーがハケて客電が明るくなり僕はBGMをかける。
それでも誰も帰らず更なるアンコールの拍手が続く。

再び全員が登場しダブルアンコールとなった。
♩マボロシ
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「いや〜、いいライヴだった」コータローがひとり言のように言った。
確かにセットリストも最高だったし、存在感が増したバンドの演奏もよかった。

coziの独特のタイム感を持つ歌うようなドラム、小島クンのメリハリのある安定したベース、はっちゃんのツボを押さえたセンスのいい鍵盤、堂々とバンドメンバーに溶け込み光るギタープレイを聞かせてくれた達っちゃん。
サポートバンドの枠を越え、パーマネントなバンドの音になっていた。

そして恐るべきはあの男だ。声はもちろん、独特の言葉を紡ぐ歌詞と抜群のメロディーを併せ持つ楽曲群の素晴らしさ。
うまく表現できないが、高級シルクの肌触りというか、マッカラン17年のとろける口当たりというか、一度体現したら忘れられない魔力が潜んでいる。

それこそがファンに「信ちゃんはステージに立って歌ってくれれば、それでいい」と言わしめるのかもしれない。


打上げは移動せずZher the ZOOで。
心地よい疲労感に包まれながら楽しく飲んだ。

コータローが本番後に僕に言ったのと同じセリフを信ちゃんに言っていた。
「いや〜久々にライヴ見たけどよかったよ。定期的にライヴやったほうがいいよ!」
まわりのみんなも大きくうなずく。

9.28の仙台でのイベントについても、少し打ち合わせ出来た。
本人がTwitterでツイートしたが、バンドで来てくれることになった。
はっちゃんはスケジュールの都合で来れないが、cozi、小島クン、達っちゃんがバックで参加してくれる。必見です。

明日もあるからと、深酒しない頃合いを見計らって宴はお開きになった。
締めの挨拶はコータローが指名された。

「え〜皆さん、今日は素晴らしいライヴでした。信ちゃんのバースデー2daysということですが、本当の誕生日は明日ですので、本番始まる直前まで構わないので遠慮せずにどしどし楽屋に祝いに来て下さい。それでは、お疲れさまでした〜!」
バンドメンバーが「行きま〜す!」と手を挙げている。

愛されてるね、浅田信一。


【本日の客入れBGM】
Imagine / Tania Maria
How Sweet It Is (To Be Loved By You) / James Taylor
Something / The Beatles
Back To The One/ Roddy Frame
Waiting On The World To Change / John Mayer
Gimme The Sunshine (Original) / Curiosity
Sunday Morning / Maroon 5
Sky Blue Sky / Wilco
Kinda Wasted Without You / Roger Nichols & The Small Circle Of Friends
God Only Knows / The Beach Boys
You Are So Beautiful / Joe Cocker
Lisa Says / The Velvet Underground
by higehiro415 | 2012-08-31 08:38 | 音楽