My Life Is My Message TOUR 2015レポ
2015年 07月 31日
山口洋 (HEATWAVE) × 仲井戸”CHABO”麗市
MY LIFE IS MY MESSAGE TOUR 2015 ~TWO OF US~
6/3〜4 相馬:菊地蔵
初日の相馬には僕と山口洋とローディーのマサミさんが前乗り。翌日に備えステージを組み楽器をセッティングしてから、新品機材のリファレンス(試し音出しチェック)を行う。まずはCD(ストーンズのBlack and Blue)でああだこうだとスピーカーのチューニング。山ちゃんは自分でCDのミックスまでやってしまうような耳の持ち主なので、僕自身もかなりの信頼を置いているのだが、なんといっても多くのPAマンが使う高音質のCDではなくストーンズの70年代の音でチェックしようという僕のやり方を「最高だね!」と喜んでくれる、音に対して同じ感覚を持てる数少ないミュージシャンの一人だ。機材は音を鳴らしていくことで、もっと馴染んで良くなっていくはずと終了。
そそくさと前打ち上げに繰り出す。少しのつもりがけっこう飲んだ。
本番日早めに会場入りして山ちゃんとサウンドチェック。彼は「ピースメーカーズのギターの人!」と飲み屋で仕入れた僕の昔のバンドネタでからかってくる。
そんなところにチャボさんが登場。第一声は「よぉ〜、マッシュ!(笑)」
ギターを持った山ちゃんがそのままステージで文字通り笑い転げた。マッシュとは僕が20代でバンドをやっていた頃のアダ名である。送迎に行ったユハラから聞いたのだろう。タイムリーなジョークであった。
例年ならツアーファイナルで訪れていた相馬。今回は初日ということで、これまでにはない緊張感あふれるステージが繰り広げられた。白眉はミチロウさんから託された新相馬盆唄。ギターとブズーキによる二人のバトルは本当に頭の中が麻痺するような高揚感を伴う。チャボさんも山ちゃんも、こういうロックじゃない曲をカヴァーするとは夢にも思わなかったと言う曲だが、伝統的和メロに絡む彼らの解釈は完全にロックだ。
大震災以降ここ相馬を中心とした被災地支援を行うMy Life IsMy Message、多くは語らないが音楽で何が出来るのかという命題にチャレンジし続ける姿勢には感嘆する。
ライヴ後は昨夜に引き続きFood & Bar 101へ。現地協力者の方々とともに楽しい宴。いつものようにオーナーのS沼さんが珍しい日本酒を出してきて飲み比べし撃沈。
6/5 福島:風と木(ふうとぼく)
メンバー、スタッフ全員でコースター(マイクロバス)に乗り込み福島市へ。
この日は駅前から車で10分ほど離れた住宅地にあるカフェギャラリー風と木でのライヴ。僕も大好きな場所だ。PA機材は石巻のナイスガイH君に持ってきてもらう。
ここは古民家を改造したこぢんまりした店で、決してライヴ向きの形状ではないのだが、作りなのか木の温もりなのかとても音の響きがいい。あちこちのライヴハウスやホールではないお店でのライヴを相当数経験しているが、たまに理論では説明のつかない音の良さ(高音質という意味ではなく心に響くという意味で)を体感することがある。白石カフェミルトンもそうだが、何か音楽の神様が棲みついているのではないかと思う。それは店主の音楽への想いが店内に響かせてきた良質な音楽が、建物に染み付き共鳴しているのかもしれない。
ライヴは昨日とはまた違ったアットホームさと森を吹き抜け木々を揺らす風のようななめらかなグルーヴが奏でられた。ここで観たい!と思わせる何かがやはりあるのか、お客さんも各地から来ている。ソロコーナーの途中、客席から「ハイウェイのお月様!」の声が飛びチャボさんが急遽歌い出したRC時代の超名曲。いつもなら冒頭だけで終わるのだが、この日はお客さん全員が一緒に歌い出し1コーラス歌いきった。このシーンが今日のライヴの雰囲気を端的に表していたのではないか。もちろん山ちゃんのソロも二人のセッションも抜群のノリを保ちながらエンディングを迎えた。
この日唯一の心残りは、夜にたまたま入ったラーメン屋のスープがぬるかったことだけである。
6/6 移動日
コースターにて長野までロングドライブ。車中は音楽の話が中心。僕も他人のことは言えないが、知らない人からすればチャボさんも山ちゃんもただの音楽バカ(笑)である。
長野に到着し自由行動。僕は中古レコード屋を掘ったあと久しぶりの長野をパトロール。Jazzバーらしき店を見つけ入ってみたら、米ホワイトハウスでのライヴ映像を流してくれついつい見入ってしまう。これも素敵な出会いだ。
ホテルへ戻るとフロアの廊下にどこからか漏れるギターの音が響いていた。チャボさんの部屋からだった。
6/7 長野:ネオンホール
初めて行く会場だが、なんというかとても味のあるハコだ。手作り感がありお世辞にも立派とは言えないが、ここも音楽の神様が棲んでいるのだろうとすぐにわかった。
メインスピーカーは年代物のALTECというオーディオスピーカー。チェックしてみるととても丸みのある耳に優しい音がして、大音量でレコードを聴きたくなる。今夜もいい音を出せそうだ。何より二人の音楽に合った響きのスピーカーとハコ鳴りなのだ。
音の話になるがクリアでハイファイな音がすべていいとは思わない。もちろんそういう音がベストな場合も多々あるが、肝心なのは演者の音楽性を最大限に生かす音、そして耳が疲れないような音質を僕は目指していきたい。
チャボさんが会場にイン。山ちゃんは朝イチから僕らの楽器搬入など手伝ってくれていた。おれセッティングするの好きなんだよ、とは言うがなかなか出来ることではない。
「マッシュ、昨夜はどこか行った?」「それがチャボさん。たまたま入ったJazzバーでホワイトハウスライヴって映像見たんですが、B.Bキングとジェフベックのギターでミックジャガーが歌ってましたよ!」「うわっ。マジで?お前だけ楽しみやがってこのやろ〜(笑)」
本番は言うまでもなく素晴らしかった。オーディエンスも熱く、現地でスタッフをやってくれた方々の尽力も相まって、さらに変幻自在に歌とギターを操る二人。ギターはもはや肉体の一部と化しているし、瞬間のひらめきをアドリブで音にする職人技はそうそう真似できないだろう。セッションコーナーは同じメニューながら、毎日違う曲のように聴こえてくる。これこそ培ってきた強靭な感覚というべきか。まさにライヴなのだ。そしてこの日の「満月の夕」は僕が知っている中でも1、2を争う美しさをまとっていた。多くの人が目に光るものがある。
打ち上げはこの日の首謀者である地元のT氏に連れられおしゃれな個室イタリアンへ。美味しいワインを飲みながら最初に聞いたロックは何か?など音楽遍歴の話題で盛り上がる。その後数名でアイリッシュパブへと移動。ギネスやシングルモルトで長野の夜を締めくくったのであった。
6.14 東京:渋谷マウントレーニアホール
横浜、下北沢を経ての渋谷ファイナル。光栄にも最終日のPAを任された。自分のスケジュールは強行軍であったが、そんなことは全く気にならないほど気合がはいる。この恩に応えるにはいい音を出すしかない。
リハが始まる頃、クアトロ入り前の古市コータローが顔を出してくれた。先日の彼のBDライヴにゲスト出演してくれたチャボさんにお礼を言いに来たのだ。そしてお互いずっと知ってはいるがちゃんと話したことはなかったという山口洋との談笑も実現。意識し合っていた日本のロック界でもトンがった部類の二人が、50歳を超えてようやく距離を縮めた瞬間でもある。いい光景だった。
(この時の様子はコータローのブログ参照)
http://www.pci-jpn.com/kotarofuruichi/archives/2015/06/210.html
リハは念入りに。この日はゲストに矢井田瞳を迎えての3マンだった。リスペクト感を保ちながらもそれぞれの個性がぶつかり合い溶け合う気持ち良さがある。音作りは苦労したが何とかいい感じで本番を迎えられてよかった。
ライヴは3マンということで休憩を挟んだ2部構成。ソロパートを短縮し3人のセッションが盛り込んである。チャボさんと山ちゃんの男臭い音のぶつかり合いもいいが、ヤイコの癖のある節回しの澄んだ歌声が混じると、これはこれで素晴らしい科学変化が起きポップ感が増す。
打ち上げのときにヤイコ本人にも伝えたが、とても繊細で難しいと思われるアコギ3本のアンサンブルもナイスだった。3人がそれぞれの音をちゃんと聴き瞬時に効果的にギターを絡めてくる感じは、アイリッシュミュージックっぽくもありサウンドの奥深さをより素敵に演出してくれた。そんなことも含めてすべてがファイナルにふさわしいライヴだったように思う。
3時間ほどのライヴはこの夜も「満月の夕」で締めくくられたのだが、エンディングSEのThe Long And Winding Roadが鳴り響き客席から大きな拍手と歓声が湧くなか、チャボさんが山口洋を指差してマイクで言い放った。
「コイツは日本のロックの誠意だ!」
スクリーンには山ちゃん直筆のyour life is your messageという文字が映し出されていた。
このツアーの苦労だけではない、ロックに人生に真っ直ぐすぎるゆえに険しい道を歩んできたであろう山ちゃんにとって、これ以上の賛辞はないのではないか。そしてそれを察して本気でその言葉を吐いたチャボさんもイカす。
その瞬間山ちゃんの瞳に涙があふれたのを僕は見逃さなかった。美しい男泣きだった。本人は認めないだろうが(笑)。
渋谷の雑居ビルのなかにあるイタリアンで打ち上がる。このメンツ(この日はヤイコもいたが)での打ち上げは「かんぱ〜い!おつかれさま〜」みたいなノリではなく、今日のライヴのことを反省したり反芻したり、まわりのスタッフのことを気にかけたり、音楽の情報交換などを普通に会話するので、打ち上げというよりは仲間との親密な飲み会のような感じがする。
事務所社長のEさんや山ちゃんが常々言う通り、ここでもチャボさんは相手のことしか考えていないように写る。いや本当に自分のことなど考えていないのかもしれない。いつも相手のことを気にかけてくれる。それは優しい性格だということもあるだろうが、要は器の大きさなのだろう。
いいミュージシャンにはいいスタッフが付いている、とよくいうが、つまりは音楽家であろうとサラリーマンであろうと、プロとしての意識や技術はもちろん最終的にはお互いをリスペクトできる人間力(といっても大袈裟なものではなく相手を思いやるということ)がものをいうということだ。そんな人が集まってのツアーだからこそ何のストレスもなく一緒に仕事も会話もできる。人生の教訓にもなるツアーだった。
途中クアトロの打ち上げを終えたコータローが合流。マーシャルアンプ談義で少年のように盛り上がる50代3名+60代1名をヤイコはどんな思いで見ていただろうか(笑)。
最後は「きょうはなんかコータローの打ち上げみたいだな!」というチャボさんの言葉でお開き。チャボさんとヤイコをタクシーまで見送り、僕らはもう一軒と渋谷の裏通りに消えたのだった。
追伸。
数日後、山ちゃんから仕事の荷物が送られてきたのだが、短い手紙が添えてあった。
「ヒロくん、ツアーではいい音をありがとう。あとコータロー君も紹介してくれてありがとね!」